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ヒューマンインターフェースデザインの名著を読もう

2007-07-10 00:56 Posted by
nase
in : 読書
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アップルから発売されたiPhoneのインターフェースは、携帯電話/PDAとしてこれまでにない魅力的なデザインになっています。

まだご覧になっていない方には、以下の動画がお勧め。(2つめの機能紹介は20分もあるので、時間のあるときにどうぞ)

美しいグラフィックと直感的なタッチ操作、そしてスムーズなアニメーション効果によってまさに「気持ちよく使える」インターフェースが実現されています。

このようなiPhoneの優れたインターフェースは、現段階での世のインターフェース研究の集大成と思わずにはいられません。(「普及品として」です)

さて、このインターフェースデザインの分野ですが、そこには繰り返し語り継がれるような名著が存在しています。

今回は、おそらくiPhoneの設計にも少なからず影響を与えたであろうこれらの書籍を紹介したいと思います。

ヒューメイン・インタフェース

ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針 ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針

「ヒューメインとは,”人間にやさしい”こと。本書は,このようなユーザー・インタフェースをどうすれば実現できるのかを,平易に説き明かしている。」


まず一冊目は、ジェフ・ラスキンの「ヒューメイン・インタフェース」。

訳者まえがきによるジェフ・ラスキンの紹介は以下の通りです。

著者 Jef Raskin 氏は、アップルコンピュータにおけるMacintoshプロジェクトのプロジェクト・リーダを努め、今なお語り継がれるMacintoshインタフェースのコンセプトを方向付けた人物です。

難解と言われることの多い本書ですが、前半部分は専門家でなくともある程度理解することができ、かつ刺激にあふれています。

いくつか気になった部分をピックアップしておきましょう。

ユーザが必要としているものは利便性と結果なのですが、彼らが目にするものはインタフェースだけなのです。顧客の立場から見る限り、インタフェースが製品そのものなのです。(P6:デザイン段階におけるインタフェース・デザイン)

今日では、身体的な機能を強化するものよりも知的支援を行う発明品が増えてきています。つまり、役に立つインタフェースをデザインするには、私たちの心に対する人間工学をマスターしなければならないのです。(P12:人間工学と認知工学)

コンピュータの使用というものは、高いストレスをともない、かつ難しいものになりがちなので、ユーザはコンピュータシステム自身に対する作業に没頭してしまい、肝心の作業から注意をそらされてしまうのです。私たちの目標は、ユーザの作業自身を注意の所在とし続けることなのです。(P30:注意の所在の単独性)

もちろん、これらは本書で取り扱われている内容のごく一部に過ぎません。

他にも「モード」の存在や「ズーミングインターフェース」に関する言及など、興味深い内容が含まれます。

ジェフ・ラスキン氏は残念ながら2005年に亡くなられてしまいましたが、iPhoneを見るかぎりその考え方はしっかりと受け継がれているようです。

誰のためのデザイン?

誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論 誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論

「日常の道具から巨大装置まで,使いにくく,ミスを生みやすいデザインが満ちあふれているのはなぜか。それをどう改善すべきか。第一級の認知心理学者がユーモアたっぷりに論じた痛快な本。」


二冊目はドナルド・A・ノーマンの「誰のためのデザイン?」です。

この本こそ、インターフェースデザイン界においてもっとも大きな影響力を持っているのではないかと思われる一冊。

もはや古典ともいえる本書は、今なお様々な場面で引用、言及されています。

人がエラーをするのは、そのものがよく考えられてなかったり、デザインが悪かったりするときなのである。

私たちが自分自身を責めているその一方で、本来俎上に上るべきデザインの誤りが見過ごされている。さらに、数え切れないほどの人々が自分には道具を使う才能がないんだと思いこまされているのである。今こそこのような状況を変えねばならない。

これは「はじめに」の部分に書かれている一説です。

同じように日頃使いづらいデザインに嫌気のさしている人たちは、強く頷いていただけるのではないでしょうか。

アフォーダンスという言葉は、事物の知覚された特徴あるいは現実の特徴、とりわけ、そのものをどのように使うことができるかを決定する最も基礎的な特長の意味で使われている。(P14:アフォーダンス)

ラベルに頼らないといけないようなデザインは失格である。ラベルは重要で、必要であることも多いけれども、自然な対応付けが適切になされていれば、ラベルはほとんど必要ない。(P126:自然な対応づけ)

デザイナーがすべきこと 1. エラーの原因を理解し、その原因が最も少なくなるようにデザインすること。 2. 行為は元に戻すことができるようにすること。 3. 生じたエラーを発見しやすくすること。また、それは修正しやすくしておくこと。(P214:エラーに備えてデザインする)

「誰のためのデザイン?」は主に身近な例を元に書かれており、大変読みやすく多くの人にお勧めできます。

インターフェースデザインを見つめ直すきっかけとして、是非読んでみてください。

エモーショナル・デザイン

エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために

「魅力的に感じるデザインとは何かを、人間の脳の働きにより、本能、行動、内省の3つの観点から分析し、それがモノ作りを通じてデザインに反映されたとき、どのような効果や影響があるかについて検討する。」


最後は、同じくドナルド・A・ノーマンの著作「エモーショナル・デザイン」をご紹介。

「誰のためのデザイン?」で、使いやすいデザインとは何かを追求してきた筆者が、実用面だけでなく今度は情動面のデザインについてその重要性を探っています。

1980年代に「誰のためのデザイン?」を書いていたとき、私は情動を考慮に入れていなかった。

たしかに、役に立つことや使いやすいことも重要だ。しかし、面白さと楽しみ、喜びと興奮、そして、そう、不安と怒り、恐れと激怒がなければ、人生は完全とは言えないだろう。

情動に加えて、もう一つのポイントがある。芸術性、魅力、美しさである。

このプロローグの一節から、著者の考え方の変化がうかがえます。

そしてこのエモーショナルなデザインこそ、iPhoneなど昨今の魅力的なプロダクトにみられる特徴とも合致するのではないでしょうか。

魅力的なもので人は気分良くなり、そのことによってさらにより創造的になる。(P24:魅力的なものの方がうまくゆく)

写真は他の何よりも情動に訴えるものがある。写真は個人的なもので、物語を語る。個人的な写真の力は、見る人をそれにまつわる出来事のあった時へと運んでくれるその力にある。個人的写真は記念であり、思い出であり、時、場所、人々を超えて記憶を共有する社会的な道具なのである。(P65:情動とデザインの多面性)

テクノロジーは、単に仕事の効率を改善するだけではなく、それ以上のものを我々の生活にもたらすべきだ。(P136:娯楽とゲーム)

断片的な引用なので伝わりにくいかも知れませんが、全体を通じた主張はプラスの情動の効果を活かすというシンプルなものです。

「エモーショナル・デザイン」はアップルの成功によって今後ますます重要視されてくることが考えられます。

より魅力的なインターフェースを実現するためにも、この考えかたはしっかり押さえておきたいところです。

その他のお勧め書籍

人を賢くする道具―ソフト・テクノロジーの心理学 人を賢くする道具―ソフト・テクノロジーの心理学

本書ではさらに広い視点で人間中心のテクノロジーを追求しています。個人的にはドナルド・A・ノーマンの著作の中で一番好きなもの。人間の認知能力を助ける道具について書かれており、この本には私自身かなりの影響を受けました。


コンピュータは、むずかしすぎて使えない! コンピュータは、むずかしすぎて使えない!

ユーザインターフェースのデザインについて、主にプログラマの抱える問題をとり上げています。ペルソナの設定によるデザインプロセスなど、具体的な解決策も提示。


クロフォードのインタラクティブデザイン論 クロフォードのインタラクティブデザイン論

この本は「技術で人を幸せにすること」のエントリでも取り上げました。デザイナーにもプログラミング技術の習得が必要であるとの考え方は、ジェフ・ラスキンも同じです。


参考ページ

アップル ヒューマンインタフェースガイドライン
こちらはWeb上から読めるかなりのボリュームなドキュメント。時間と根性があったら挑戦してみてください。
人を賢くする道具―ソフト・テクノロジーの心理学/ドナルド・A・ノーマン:DESIGN IT! w/LOVE
最近、人間中心デザインといったらこのブログ。関連書籍も沢山紹介されています。
POLAR BEAR BLOG: 未来の携帯電話インターフェース
海外ではiPhone以外も頑張っているよう。国内メーカーはどうなっているやら。
Passion For The Future: ヒューメイン・インタフェース―人に優しいシステムへの新たな指針
こちらの記事に出てくる増井俊之先生は、現在アップルにおられるはず。
脱・下流エンジニア (仮) - 誰のためのデザイン? / ドナルド・A.ノーマン
この本はデザイナーだけでなく、エンジニアなどモノ作りに携わる多くの人に読んでもらいたいところ。

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